『半落ち』の感想
ネタバレなし、ネタバレありの感想を分けて書いてます!
『半落ち』
著者:横山秀夫
本の長さ:360ページ
受賞歴:
「このミステリーがすごい!」2003年度1位
「週刊文春ミステリーベスト10」2002年1位
読了日:2025.5
あらすじ
現職警部が妻を殺したと自首
被害者は3日前に殺害されていた。
男は殺害した動機、経緯についてすべて正直に話し、証拠は十分。
事件は「完落ち」で終わるかに見えた。
だが男は頑なに何かを隠している。
犯行後2日間の空白については絶対に口を割らないのだ。
容疑は認めているが一部については自供しない「半落ち」状態
捜査官、検察官、新聞記者…それぞれが真相を探っていく。
「人間50年」――
男が命より守ろうとするものとは。
読む前のあなたに
ネタバレなしの感想です。
よみたてほやほや感想
ひとつの謎を解き明かすリレー
警察の取り調べから、検察・裁判所を経て刑務所にいくまで。
章ごとに主人公が取り調べの人間、検事、新聞記者、、と変わる。
変わりながら、ひとつの事件を追っていく。
でも時系列はそのまま進んでいく。
読みやすかった。
仕事に熱いっていいなあ。
正直なところ、個人的に刑事ものは映像で見るのは好きだが小説は苦手。
文字で登場人物が増えると誰が何者だったか追うのに少し疲れてしまうことが多い。
ただ今作は章ごとに主人公が変わることで、自分の目線を変えるタイミングが分かりやすい。
心配ご無用!
これまでも事件をいろんな人の角度から書いたものはいくつか読んだことがある。
だが、時間軸に応じてその時の人の目線で話が進んでいくものは初めて。
しかも、見えないものは共通しているというあまり見たことのない構成。
新しくおもしろかった!
謎の部分については、本を読む手を止めて、んん?!?おーっっ!という感じ。
おすすめポイント
ザ・ミステリーではない
いい意味でザ・ミステリーという感じではない。
感動的で考えさせられるお話。
自分がこの人の立場だったらどうするだろうか。
こんな考え方は自分には無いな。
と読みながら別の頭で考えさせられる。
典型的なミステリーが読みたい!!
という方にはお勧めしないかも。
また、各章で語り手が異なることで、短編と長編と間のような読みやすさがある。
長編はしんどいけど短編よりも重厚な内容のものを読みたいという方にはおすすめ。
おすすめしないポイント
シンプルな分、単調
空白の2日間に何をしていたのか。
この謎以外に複雑な要素は少なく、各章の主人公がそれぞれの立場でそれを探る。
読みやすいようで、展開が少ない分、単調で読みにくいと感じる人もいるかもしれない。
その分、謎以外の部分としてそれぞれの人間のストーリーにフォーカスしている。
また、ひとつ前で書いたように王道ミステリーを欲している方には少し物足りないかも。
ただ!最後に判明する謎が物足りない訳ではない。
物足りる!
手掛かりが少しずつ増えていくような、ミステリー小説らしい「なんだなんだ?!」というのが少ない。
ちょっと寂しい。。
読んだ後のあなたに
ネタバレありの感想です。
良かったポイント
仕事への姿勢、生き様
志木から始まる章ごとの主人公がかっこいい!
それぞれの人間のストーリーとそこから生まれる仕事に対する考えが素晴らしい。
生き様の描写が見事で、とても感情移入しやすかった。
1つの章が終わるたびに、この人も謎にたどり着けなかったか…と落胆。
梶との我慢比べ、組織のしがらみ、、
歯がゆい!!
空白の2日間は何を?!
という初めからの謎一本でそれほど新しい手がかりもなく引っ張られすぎた感はあるけど、、
それでも歌舞伎町に行った理由が分かった時には驚いたし納得。
自分はドナー提供の意思表示もしたことがないし、詳しくない。
免許証やネットの登録で簡単にできると知り、詳しく調べてみようと思った。
また、個人的には捕まってから囚人になるまでの道筋を知ることができて面白かった。
一見複雑ではあるものの、一度乗ってしまえばスルスルとベルトコンベアに乗るよう。
なんとなくそこに形式的な怖さを感じた。
心が動いたシーン
殺して欲しい?!
もちろんラストでラーメン屋で働く青年に会うところも感動的!
だが、個人的にはアルツハイマーが進行していく妻に殺して欲しいと頼まれるシーン。
そんなこと言われたらどうしたらいい?!
でも本当に殺すなんてできない!
うん絶対できない!はず。。
その状況にならないと分からないけど、、
さらに梶は息子を白血病で亡くしているだもんなぁ。
嘱託殺人の罪の程度について
これがこの本のテーマだろう。
殺して欲しい人のために、自分では死ねない人のために手を下す。下してあげる。
その罪の重さとは!?
でもやっぱり優しいから殺せたという部分には理解ができないなあ。
自分も50歳に近づいたら。考え方が変わるのかもしれない。
またその年齢に近づいたら再読したい。そう思った。